臨床発達心理士|JOCDP(一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構)

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臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 63-72

発達障害児とその母親の母子相互作用場面における情緒応答性

金平 希
福山大学人間文化学部

諏訪 絵里子
大阪大学キャンパスライフ健康支援センター

川村 祐未
大阪人間科学大学大学院

堤 俊彦
大阪人間科学大学人間科学部

皿谷 陽子
福山大学人間文化学部

谷本 智佳
笑lable

本研究では,発達障害児とその母親における情緒応答性(Emotional Availability;以下EA)の特徴を明らかにすることを目的とした。参加者は4~6歳の発達障害児とその母親10組および4~5歳の定型発達児とその母親11組であった。情緒応答性尺度を用いて母子観察場面でのEA を評価し,定型発達の母子と比較した。その結果,発達障害児の母親は,子どもに対して攻撃的な情緒を表出しやすいものの,子どものサインに敏感に反応したり,その場を構造化したり,干渉しすぎないことは定型発達児の母親と同様に行っていた。一方,発達障害児の多動や衝動性といった障害特性や問題行動が,母親に対する反応の悪さという点で母子関係に影響を及ぼしている可能性が示唆された。

【キー・ワード】情緒応答性,発達障害,母子相互作用


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 73-83

発達障害のある小学生を対象とするキャリア教育プログラムの開発

滝口 圭子
金沢大学学校教育系

榎本(寺田) 容子
国立特別支援教育総合研究所

宮本 昌子
筑波大学人間系

安井 宏
目白大学保健医療学部

小学校5年生男児1名,6年生男児5名の計6名を対象に,6か月9日間のカフェプログラムを開発,実施した。参加者は1名を除き,自閉スペクトラム症あるいは注意欠如・多動症の診断を受けていた。参加者はプログラム実施前後に評価尺度及び自由記述を含む調査票に回答した。調査の結果から,プログラムを通して自尊感情が高まり,業務スキルやコミュニケーションスキルを身につけることができたと認識する児童が登場した。その一方で,勤労意識や自尊感情が低くなった児童も存在したが,当該児童の自由記述からは,仕事の内容や仕事に必要な手続きの具体化が確認された。今後の課題として,より妥当性の高い評価方法の開発が挙げられる。

【キー・ワード】就労支援,カフェプログラム,コミュニケーションスキル,勤労意識,自尊感情


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 84-94

発達障害を有する子どもと精神障害を有する親への臨床発達支援のあり方に関する実践研究
――子ども虐待ソーシャルワークにおける家族再統合支援からの考察

音山 裕宣
川崎市高津区役所保護課(高津福祉事務所)

発達障害を有する子どもは家庭内で虐待行為の対象となりやすく,親が精神障害を有する場合はその傾向が顕著である。本研究は,臨床発達心理士資格を有する筆者が児童相談所児童福祉司として実践した,「児童養護施設に措置された発達障害の診断を受けている子どもと,精神障害の診断を受けている母親の家族再統合支援」の内容と結果を考察したものである。その結果,人的・物的環境整備が重要なこと,また精神障害を有する親に対する支援ではエンパワーすることの重要性が示された。そして支援者がチームを組み,支え合うことが重要であること,臨床発達心理士には発達理解を基盤としたコーディネート機能が求められていることが示唆された。

【キー・ワード】子ども虐待,注意欠陥・多動性障害,境界性人格障害,安全基地,チームアプローチ


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 95-104

保育園における自閉スペクトラム症男児の日常生活スキルの獲得を目的とした行動コンサルテーション
――保育士の介入厳密性を維持・促進するための介入方法の検討を中心に

斎藤 ひみこ
関西学院大学文学部心理科学実践センター

米山 直樹
関西学院大学文学部

保育園において,自閉スペクトラム症男児の日常生活スキルの獲得を目的とした行動コンサルテーションを実施し,保育士の介入厳密性を維持・促進するための方法を検討した。対象児が習得すべき行動に対して課題分析と視覚支援を行うとともに,その支援の実行に際して保育士が正確に一貫した支援手続きを継続できるよう,外部支援者よるコンサルテーションを行った。その結果,保育士の介入厳密性が維持・促進されるとともに,対象児が標的となった日常生活スキル獲得し,介入台本の使用と対象児の行動変化および保育士の介入厳密性に関するパフォーマンスフィードバックが,介入厳密性の維持・促進に有効であることが示唆された。

【キー・ワード】保育園,自閉症スペクトラム,行動コンサルテーション,介入厳密性


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 105-114

通級指導教室に通う自閉症スペクトラム児に対する童話を題材とした心理劇的アプローチ

長田 洋一
盛岡大学

都築 繁幸
東京通信大学

本報告は,小学校の通級指導教室に通う3年生の男子自閉症スペクトラム児,2名に心理劇的アプローチを試み,その指導経過を述べたものである。心理劇の手法に基づき,童話を題材にして対象児に自分の役を自由に演じさせた。対象児の演技をビデオ収録し,視覚的フィードバックを与え,ポジティブな面を認識させた。このような指導を22回行った。対象児のA 児は知的な遅れはなく,B児は境界線児である。対象児の希望と教師の推薦で取り上げる童話の題目を決めた。指導の経過から,1)対象児の通級指導教室での変化,2)対象児の通常学級での変容,3)自閉症の状態像,4)心理劇的アプローチの通級指導教室への適用について考察した。

【キー・ワード】通級指導教室,心理劇的アプローチ,ビデオフィードバック,ASD児,童話


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 115-123

自閉スペクトラム症児に対するきこえの支援に関する縦断的研究
――FMシステムによる支援を実施した一事例の経過

小川 征利
岐阜県立揖斐特別支援学校

本研究は、きこえに困難を訴えた自閉スペクトラム症児(ASD児)に対し,FMシステムを用いた9年間の支援経緯からその効果について検討した。支援は,視覚的手がかりの活用や話し方の配慮などの環境調整に加えて,FMシステムの使用を担任教師等に依頼した。結果,騒音付加での語音弁別検査で100%の正答,日常の生活においても騒音下での聴取に改善が認められた。また,WISC―Ⅲ及びWISC―Ⅳの結果からは全般的な知的発達の促進が認められ,特に言語理解と注意記憶において改善が認められた。きこえに困難を有するASD 児に対して,環境調整に加えFMシステムによる聴覚入力の保障が,騒音下における聴取能力の向上や知的発達の促進に関する一助となった。

【キー・ワード】自閉スペクトラム症,きこえの困難,FMシステム,WISC,言語発達


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 124-133

自閉スペクトラム症児のパニックへの対人関係発達支援

山﨑 真義
滋賀県立八日市養護学校

本研究は、パニックを頻発する特別支援学校小学部に在籍する一人の自閉スペクトラム症児に対して対人関係発達支援を4年間行った事例について検討したものである。本事例は,学校生活,家庭生活において,パニックが軽減し,パニックが起こった時でも,教師の存在を支えに早く立ち直ることができるようになり,情緒が安定し,落ち着いて過ごすことができるようになった例である。その際の支援の要点は,他者との関わりの中で,共同注意の形成に重点を置き,働きかけを受けとめる力や情動の相互調整力をつけていくことであった。

【キー・ワード】自閉スペクトラム症,パニック,二者関係,対人関係発達,共同注意,SCERTSモデル,情動の相互調整


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 134-142

強度行動障害と視聴覚障害を合併する動く重症心身障害者に対するトイレでの排泄に向けた支援

丸澤 由美子
独立行政法人国立病院機構三重病院 療育指導室 主任児童指導員

村松 順子
独立行政法人国立病院機構鈴鹿病院 療育指導室 主任児童指導員

高橋 純哉
独立行政法人国立病院機構三重病院 小児科 医師

大橋 浩
独立行政法人国立病院機構三重病院 小児科 医師

村田 博昭
独立行政法人国立病院機構三重病院 小児科 小児科部長

竹下 秀子
追手門学院大学 心理学部 教授

強度行動障害,特に排泄に関わる障害(不適切な放尿・放便)と視聴覚障害を合併する動く重症心身障害者のAさんにトイレでの排尿・排便行動を可能にするため,夕食前にトイレへ行くことを日常生活スケジュールの一環として導入した。初日は便座に座ることすら嫌がったAさんだったが,4日目には自ら進んで便座に座り,5日目には排尿・排便することができた。24日目以降にはほぼ便座に座って排尿することができた。1日に数回あった不適切な放尿・放便が,1年後には半減し,その後,一時増加したものの,2年後には再び減少し,その低頻度が持続した。Aさんの日常生活スケジュールの中にトイレでの排泄行動を位置づけたことが状況の改善を導いた要因となったことを議論した。

【キー・ワード】トイレット・トレーニング,排泄行動,視聴覚障害,強度行動障害,動く重症心身障害者


臨臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 143-154

特別養子縁組で育つ子どもの生い立ちに関わる理解の深化とアイデンティティ形成
――春菜さんのライフストーリー

富田 庸子
鎌倉女子大学

本稿では,特別養子縁組で育ち成人した春菜1)さんが,テリング(出自に関わることがらを育て親が日常の中で子どもの発達に応じて伝え続けていくいとなみ)や産みの親との交流を通じて生い立ちに関わる理解をどのように深め,アイデンティティ形成につなげてきたのか,そのライフストーリーを関心相関的に探究した。その結果,①迎えられたその日からの日常的なテリング,②心理社会的発達に伴う視野の広がり,③子どもと産みの親,双方にとってタイミングのよい交流,④育て親の受容的・共感的態度が,迎えられたことや産みの親についての春菜さんの理解を深め,外的社会的定義に基づく位置付けのアイデンティティにとどまらない「ありのままの自分としてのアイデンティティ」の形成に寄与したことが示された。

【キー・ワード】養子縁組,縁組支援,ライフストーリー,テリング,アイデンティティ


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 155-162

発達障害児の保護者に対する全5 回ペアレント・トレーニングの評価
――子どもの行動変容と育児ストレスの点から

神山 努
国立特別支援教育総合研究所

本研究では発達障害児の保護者に対して,標的行動を選定してそれに基づき子育て方法を学ぶ,全5回のペアレント・トレーニングを実施し,その効果を標的行動の変容,育児ストレスの変化,満足度から評価した。その結果,標的行動の達成に成功したとされる参加者は40名中18名であった。また,標的行動の改善に成功した参加者と,そうでない参加者間で,満足度評価に大きな差はなく,いずれも肯定的な結果が得られたこと,育児ストレスの指標に大きな変化がなかったことが示された。以上の結果をふまえて今後の課題として,ペアレント・トレーニングにおける子どもの行動変容や保護者の育児ストレスの軽減に影響する要因について検討点を考察した。

【キー・ワード】発達障害,ペアレント・トレーニング,行動変容,育児ストレス,満足度


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 163-170

子育て相談における支援者と母親の情動を媒介にした関係の形成
――〈支援する-される〉という関係を「接面」という概念で読み解く

塚田 みちる
神戸女子短期大学幼児教育学科

本研究は某保育園内の遊戯室開放にて実施される子育て相談を,〈支援する-される〉という関係に着目して取り上げたものである。対象は,卒乳の問いを発した母親Aである。この問いをきっかけに,母親‐子ども‐支援者(筆者)のあいだに生じた情動の動きをエピソードに記述した。その結果,母親のこの問いを端緒に生まれた三者間の情動的繫がりが,緩やかになったり濃密になったりしながら三者間の関係形成に繫がったことが明らかになった。このことから子育て支援では,「接面」という目に見えない人と人とのあいだに生じる情動的繫がりとその変化が,〈支援する-される〉という関係性のありようの鍵を握ることが示唆された。

【キー・ワード】子育て支援,子育て相談,〈支援する-される〉という関係,エピソード記述,接面


臨床発達心理実践研究2019 第14巻 第2号 171-180

小学校における特別な教育的支援を要する児童への机間指導に着目した学校コンサルテーションの意義
――実態調査にもとづく研修用ツールの開発を通した検討

森 正樹
埼玉県立大学

発達障害のある児童等に小学校教師が行う机間指導の実態調査を行った(18校,教師135名)。質的帰納的分析により252 個のコード,12個のカテゴリー及び36個のサブカテゴリーが集約された。これに関連したツールを作成し,机間指導をテーマとする研修を行った。研修後の聴取で教師から,机間指導を意識的・目的的に実践し,他児童へも応用的に行ったこと,校内での指導技術の共有と継承が報告された。これらから,教師の特別支援の指導技術向上に資するコンサルテーションの要件として,①授業改善に関連付けた検討,②学級全体のニーズとの共通性や連続性,③既有の指導技術の潜在的可能性への気付きの促し,④教師の経験知の言語化を提言した。

【キー・ワード】特別支援教育,特別な教育的支援を要する児童,机間指導,学校コンサルテーション


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