臨床発達心理実践研究2018 第13巻 第2号 77-82
知的障害児者のライフプランニングに関する研究
山形県立米沢女子短期大学
知的障害児者の職業生活を支えるためには,本人のQOL を保障し自分の将来設計について見通しをもたせ,ライフプランを構築できる支援が求められる。ライフプランの構築に関しては,ライフプランシートを活用したASD生徒に対する報告がみられ,時間軸で自分の生活を考えることができることや,視覚的に把握しやすくイメージしやすいことなど有効性が示されている。
今回の研究では,現場実習や現在の就労生活を参考にしながら,ASD生徒への活用で有効性が報告されているライフプランシートを活用し,知的障害児者がライフプランニングをする上での具体的な指導方法を検討した。その結果,現場実習事前事後学習や就職後など,対象者に自らが働く姿を意識させ,将来像の具体的なイメージを考えるように促すことで自己理解が深まり,人生設計できることが明らかになった。
【キー・ワード】知的障害児者,ライフプラン,QOL,進路指導,現場実習
臨床発達心理実践研究2018 第13巻 第2号 83-92
早産で生まれた極低出生体重児の小学3年生から5年生における算数文章題解決の特徴
――正期産の定型発達児との比較
立教女学院短期大学
減算文章題の逆思考問題を取り上げ,算数文章題解決の5つの下位過程から,極低出生体重児と正期産で生まれた定型発達児の遂行を比較した。小学3年生と5年生における両者の解決から,極低出生体重児の算数文章題解決には,習得水準に遅れがなく良好な遂行を示した者,遅れはあるものの学年上昇とともに文章題解決が可能となり改善を示した者,5年生になっても改善がみられない者,といった3 タイプの存在が認められた。極低出生体重児は,定型発達児に比べて,予め見通しをもった解決を行うことや,解決結果を見直す,といった自発的なモニタリングが弱く,それが解決を困難にしていることが示唆された。
【キー・ワード】早期産児,極低出生体重児,定型発達児,算数文章題解決過程,小学生
臨床発達心理実践研究2018 第13巻 第2号 93-103
小規模大学における発達障害がある学生に対する学生相談室の実践
――学生が体験する困難と支援に関する課題
聖学院大学
宮内 洋
群馬県立女子大学
発達障害がある人の大学進学が大幅に増えており,10年前と比べると30 倍以上とも言われている。大学における発達障害への支援は,障害がある人の要望に沿った個別の支援を提供することが求められているが,生涯発達における青年期特有の混乱や葛藤の問題と相まって,そのニーズや求められる支援は多様化している。
関連法施行以降,各大学では発達障害をはじめとした障害がある学生に対する全学的な支援システムを構築しているが,経営的な問題等により,すべての大学が支援システムを構築できているわけではなく,現実的には少数の教職員で対応せざるを得ない大学も少なくはない。
本研究では,小規模大学の学生相談室において支援を行った発達障害の3事例を紹介し,診断名が同じであっても診断時期によって困難が表面化しにくいケースがあること,アイデンティティの葛藤と親子関係の調整,青年期の他の障害との混同などがあることなどが示された。また大学全体として一貫した支援が必要であるが,それぞれの機関の障害理解や支援方法が異なるなどの課題を指摘した。
【キー・ワード】発達障害,大学生,青年期,修学支援,小規模大学
臨床発達心理実践研究2018 第13巻 第2号 104-111
自閉スペクトラム症児における対人コミュニケーションスキル促進のための基軸行動発達支援
――勝ち負け以外の評価と援助行動に着目して
立教大学現代心理学部
大石 幸二
立教大学現代心理学部
1名の自閉スペクトラム症児に対し,本児の困難感の解消と対人コミュニケーションスキルの促進を目的として基軸行動発達支援を行った。比較的自由な環境下で本児が困ったときに適切な援助要求ができるよう遊びの中でモデル提示を行った。この手続きにより援助要求を学習するとともに,勝ち負けのみにこだわるのではなく勝ち負け以外の手がかりに対しても応答できるようになることを目標とした。活動全体を通して,本児は他者に対して自発的に「入れて」「手伝って」といった援助要求をすることができるようになった。また勝ち負けのみにこだわらず,遊び自体を楽しんだり,他者との関わりを楽しむことができるようになった。以上により本行動支援には一定の効果があると考えられた。
【キー・ワード】自閉スペクトラム症,小集団,基軸行動発達支援,援助要求,モデル
臨床発達心理実践研究2018 第13巻 第2号 112-118
児童相談所による児童養護施設の支援の試み
愛知県刈谷児童相談センター
児童養護施設には多くの困難を抱えた児童が入所しており,施設内暴力は深刻な問題となっている。施設内暴力は,望まない施設入所という構造的な問題から生じており,児童への個別支援のみでは充分ではない。そこで本研究において,施設内暴力を防ぐ第一歩として「仕組み作り」の重要性を理解するための実践を試みた。具体的には,児童相談所に施設を支援する委員会が立ち上がり,施設職員研修と施設現状分析を柱に仕組み作りへの支援を試みた。その結果,2年間で施設職員研修を延べ13施設,施設現状分析は延べ7施設で行い,肯定的な評価を得た。今後の課題として,研修や分析内容を施設内で浸透させること,継続的に支援を行うことが挙げられた。
【キー・ワード】児童相談所,児童養護施設,施設内暴力,仕組み作り,協働