臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 85-91
保育場面における「気になる」子どもの社会性発達
――「社会性発達チェックリスト」から捉える「気になる」子どもの特徴
東北大学大学院教育学研究科
飯島 典子
聖和学園短期大学保育福祉学科
高橋 千枝
鳥取大学地域学部
小泉 嘉子
尚絅学院大学総合人間科学部
平川 久美子
石巻専修大学人間学部
神谷 哲司
東北大学大学院教育学研究科
本研究の目的は,保育場面における幼児の社会性発達を把握するために開発された「社会性発達チェックリスト」(幼児版)を用いて,いわゆる「気になる」子どもの社会性発達の特徴を明らかにすることである。2歳~6歳までの典型発達児1,250名と「気になる」子ども248 名を分析対象とした。その結果,〈集団活動〉〈子ども同士の関係〉〈感情〉の領域において,典型発達児と「気になる」子どもの違いが顕著であった。年齢別では,3歳,4歳,5歳において典型発達児と「気になる」子どもの差が大きかった。とりわけ,注意,情動抑制,対人調整にかかわる項目において,「気になる」子どもの社会性発達得点が低い傾向が認められた。
【キー・ワード】社会性発達チェックリスト,保育,「気になる」子ども
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 92-101
乳幼児健診における社会性発達の継続的評価
――SACSを参照した行動観察をとおして
群馬パース大学
毛塚 恵美子
群馬県立女子大学
1歳代早期からの社会性発達に関する継続的な観察の意義を明らかにすることを目的として,15か月児健康相談から3歳児健康診査までの2年間にわたり,健診等に社会性の発達に関わる行動観察項目を導入しその経過を追った。行動観察項目には,オーストラリア,ヴィクトリア州で施行されているSACS(Social Attention and Communication Study)を参照し,日本の健診等の体制に合わせ,構成と内容の改変を行った。その結果,15か月児健康相談から3歳児健康診査までモニタリングされた対象から,発達に特徴のある3つのグループの存在と, ASD(Autism Spectrum Disorder,自閉スペクトラム症)の疑いのある子どもを同定することができた。そこから,継続した複数回の評価の必要性と,1歳半健康診査前の早期からの予防的介入の可能性が示唆された。
【キー・ワード】乳幼児健康診査,社会性の発達,行動観察,自閉スペクトラム症,早期支援,SACS
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 102-109
子ども家庭支援センターによる障がい児の親の仲間づくり支援の意義と心理士の役割
――自助グループ「ままらっこ」の実践とスタッフアンケートの検討から
浦和大学
子ども家庭支援センターの利用を契機として活動が始まった障がい児の親の自助グループ「ままらっこ」の実践の振り返りと,会を運営するスタッフを対象としたアンケートから,子ども家庭支援センターが障がい児の親の仲間づくりを支援する意義と心理士の役割についての検討を行った。自助グループへの支援は,子ども家庭支援センターの役割である地域組織化活動であり,子ども家庭支援センターの支援により子育て初期の障がい児の親の仲間づくりが推進され,会を運営するスタッフは仲間とのつながりによって肯定的な変化を経験していた。心理士の支援により,会のスタッフ,参加者へのきめ細かな心理・発達支援が可能となっていた。
【キー・ワード】子ども家庭支援センター,障がい児,自助グループ,親支援,心理士
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 110-116
A市の支援教育にかかわる資源間の連携と支援ネットワークシステムに関する質的調査
神奈川県立相模原中央支援学校
国は「特別支援教育」を,神奈川県とA市は障害の有無にとらわれない「支援教育」を推進し,体制整備のための仕組みも提案されてきた。本研究はA市内各小中学校の校内支援体制を支える支援教育にかかわる資源とその役割・活動内容を整理し,それぞれの資源間の「連携」の状況や「支援ネットワークシステム」の現状・成果や効果・課題を評価し,課題に対する具体的な対応策を考察することを通して資源間の機能的連携のあり方や今後の支援ネットワークシステム構築の進め方について考察した。その結果,成果・効果と課題が明らかになり,資源間の機能的連携を可能とする支援ネットワークシステム構築に必要な要素は〈コーディネートする機関・人材の設置〉〈互いの役割や連携の状況・連携モデルを「知らせ合う場」作り〉〈連携効果・コーディネーター実行機能の評価システム構築〉であることがわかった。
【キー・ワード】支援教育,資源間の機能的連携,支援ネットワークシステムの構築
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 117-125
発達障害児への支援効果測定の試み
――FOS-J(家族アウトカム調査票)を用いて
広島市西部こども療育センター
山根 希代子
広島市西部こども療育センター
児童発達支援センターにおいて発達障害児の療育を行い,FOS-J(家族アウトカム調査票)を用いて家族支援の効果を測定した。保護者124名の回答を分析した結果,療育を受けたことで家族の知識や行動が変化したことが示された。当発達支援センターの支援内容と照らし合わせて,その効果に影響した要因を考察した。また,支援効果の認知度を高群と低群に分けて分析したところ,低群の一部の保護者に対しては,個別に心理状態や家庭状況にあわせる必要性があったことなど,今後の支援課題が明らかとなった。FOS-J を支援効果の測定にとどまらず支援そのものに活かせる方法の検討をすべきことが分かった。
【キー・ワード】発達障害児,家族支援,支援効果
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 126-134
算数文章題に困難を示した児童の解決過程からみた経年変化
――小学1年時から4年時までの追跡調査より
立教女学院短期大学
伊藤 良子
東京学芸大学
算数文章題解決に困難を示した児童3名を対象に,小学1年から4年にわたり逆思考を必要とする問題(減算)の算数文章題・記号問題(数値の代わりに記号を使用)を実施し,その解決上必要な予測・問題理解・プラン立案・実行・評価という5つの下位過程について検討した。対象児の4年間における遂行状況の変化から5つの下位過程の習得プロセスが示された。また,3名の対象児には,算数文章題解決において習得差が認められ,認知的偏りによる要因が示唆された。加えて,対象児の算数に対する自信や動機づけが,算数文章題の解決過程に影響することも推察された。
【キー・ワード】算数文章題,解決過程,小学生,経年変化,発達障害
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 135-145
通常学級におけるRTIモデルで検出した読字困難児の特性の検討
――「音読困難の背景に関する詳細調査」を使用して
鳥取大学地域学部附属子どもの学習・発達研究センター
関 あゆみ
北海道大学大学院教育学研究院
池本 久美
鳥取市教育センター
小枝 達也
国立成育医療研究センター
本研究の目的は,RTIモデルで検出した読字困難児の学習面と行動面の特性把握を行うことであった。T市全小学1年生を対象にRTIモデルに基づくT式ひらがな音読支援を1年間かけて実施した結果,42名(2.42%)がRTIモデルの第3層の対象児として抽出された。本研究ではその42名に対して,「音読困難の背景に関する詳細調査」を実施した。2年生時に「読み」に特化した語彙指導を行う対象児を語彙指導群とし,彼らの学業面と行動面の困難を分析した。その結果,学習面については「読む」「書く」に困難を示す対象児が多いこと,行動面では「集中が短い」「落ち着きがない」などの項目で困難を示す対象児の多いことが確認された。
【キー・ワード】RTI モデル,小学1年生,読み書き困難,T式ひらがな音読支援
臨床発達心理実践研究2015 第11巻 第2号 146-156
漢字書字のつまずきを示す発達障害児に対する学習支援の取り組み
――WISC–IIIによって明らかにされた認知特性を活かして
和泉市立国府小学校
寳 めぐみ
羽曳野市立羽曳が丘小学校
本研究の目的は,漢字書字のつまずきを示す発達障害を有するA児に対してWISC–IIIを活用しつまずきの背景をアセスメントするとともに,高い認知能力を用いた学習支援法を開発することとその有効性を検証することである。研究の結果,開発された「パズル法」,「比較法」,「意味づけ法」は,ベース期と介入期の漢字得点の正答数,誤答数の比較及び行動観察からその有効性が示唆された。
【キー・ワード】漢字書字,認知特性,WISC-Ⅲ,長所活用,発達障害
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 157-163
言語聴覚士臨地実習における発達障がい学生への単位修得支援
――WAIS–IIIを用いた自己理解促進と合理的配慮の取り組み
九州保健福祉大学保健科学部
太田 栄次
九州保健福祉大学保健科学部
藤田 和弘
九州保健福祉大学QOL研究機構
本研究は,言語聴覚士臨地実習における発達障がい学生の支援を通して,キャリア意識の変容を含めた自己理解促進と合理的配慮の視点から,具体的な支援方法を検討した。初回の臨地実習が不合格となった3年次学生に対して,2度目の臨地実習に向けて,WAIS–IIIの検査結果を踏まえ,自己理解と実習指導方法の工夫を行った。また,実習指導者と大学教員の連携による合理的配慮を行った。その結果,必要な課題が達成でき,臨地実習単位の修得ができた。発達障がいがある場合,本人のキャリア意識を視野に入れ,①認知特性の自己理解を促進すること,②認知特性に基づいた指導方法の考案,③実習先の関係者と大学教員の連携の必要性が示唆された。
【キー・ワード】発達障がい学生,臨地実習,自己理解,WAIS–Ⅲ
臨床発達心理実践研究2016 第11巻 第2号 164-172
知的遅れのない自閉症スペクトラム障害幼児の精神医学的ニーズに関する検討
横浜市総合リハビリテーションセンター
武部 正明
相模原市発達障害支援センター
日戸 由刈
横浜市総合リハビリテーションセンター
白馬 智美
横浜市総合リハビリテーションセンター
田中 里実
横浜市総合リハビリテーションセンター
保育所・幼稚園に通う幼児を対象とした調査の中で,自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders: 以下ASD)の症状が強い幼児は複数の領域に渡る深刻な精神医学的ニーズを併せ持っていることが報告されている。今回,我々は療育機関を利用するASD幼児を対象とし,精神医学的ニーズの実態と,それに関連する要因について調査を行った。その結果,ASD幼児の精神医学的ニーズは高く,複数の領域に渡っていることが示唆された。また,ASD症状の強さによって抱えるニーズが異なることが明らかになった。早期から専門療育を利用していてもなお,日常場面で高いストレスに晒されているASD幼児の存在を踏まえ,幼児期からの心のケアの在り方を検討することが求められる。
【キー・ワード】自閉症スペクトラム障害,幼児,精神医学的ニーズ,アセスメント