臨床発達心理士|JOCDP(一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構)

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臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 115-121

自閉症のアセスメントと支援の最先端を学ぶ
――Wilmington TEACCH センターの実践に学ぶ

三宅 篤子
国立精神神経医療研究センター児童青年精神保健部

自閉症支援の最先端の実践の一つであるTEACCH プログラムをWilmington TEACCHセンターの実践の陪席などを通して学んだ。自閉症支援の研究動向を整理しTEACCHプログラムの位置づけ,ノースカロライナのTEACCHプログラムの新しい試み,Wilmington TEACCHセンターや地域の学校での自閉症支援の実践を概観し,日本における自閉症支援の在り方を考える。

【キー・ワード】TEACCHプログラム,自閉症支援,エビデンス・ベイスト・プラクティス(EBP),包括的療育モデル(CTM),焦点化された療育技法(FIP)


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 122-133

ウィルミントンTEACCHセンターでのアセスメントと支援

秦野 悦子
白百合女子大学

ウィルミントンTEACCHセンターでのアセスメントはPEP3などを使用するフォーマルアセスメントおよび観察を主体としたインフォーマルアセスメントの双方を活用した包括的アセスメントである。早期介入支援には,センター内で行われる個別の親支援セッション,3組の親子でのグループセッションなどを基本とするが,この基本方針は家庭での親支援セッションにも生かされている。ASD児に対しては,そのベストパフォーマンスを引き出し,他者や環境との相互的関わりを育てることを目標に,各セッションでは,課題と遊びを取り入れ,視覚的支援をルーティン化していくことによりASD児にわかりやすい環境を提供している。支援は,対象児の興味関心に基づいて長所を伸ばしていくという個別化が行われていた。アセスメント,指導方略,スキル促進のいずれにおいてもセラピストは,侵入せず,邪魔にならず,対象児にとって必要な時に利用可能な存在でいることが求められる。

【キー・ワード】TEACCHセンター,アセスメント,PEP3,早期介入支援,視覚的支援


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 134-140

就学前の地域支援

町田 徳子
青森県発達障害者支援センター

堀 友子
のぞみ発達クリニック

ノースカロライナ州では生後から3歳までの乳幼児にはNC Infant Toddler Program,就学直前の幼児にはNC Pre-Kプログラムが展開されているが,今回はWilmingtonにおける就学前の支援施設として,Child Development Center(児童発達センター)を見学した。健常な子どもも含めさまざまな障害のある就学前の幼児が通う施設であるが,Wilmington TEACCHセンターと協働し,自閉症の脳の機能・構造による思考,学習,神経行動学的パターンの違いに焦点を当てた指導が行われていた。これらの早期からの介入プログラムの実際から得られた視点を,日本の未就学児支援の参考となる点を中心にまとめた。

【キー・ワード】早期療育,協働,専門性,個々の発達を尊重する,生涯発達支援


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 141-147

TEACCHプログラムによる学童期の自閉症児支援

石井 正子
昭和女子大学

須藤 幸恵
埼玉県立所沢おおぞら特別支援学校

アメリカでは個別障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act:IDEA)によって,3~21歳までの障害児に無償で適切な公教育を受ける権利が保障されている。さらに,障害児の教育環境は「Least Restricted Environment(可能な限り通常教育に近接した環境)」でなければならず,教育の場でのインクルージョンが積極的に進められている。Wilmington TEACCHセンターでは学童期の自閉症児に関して,自閉症スペシャリストや担当教員の研修,コンサルテーションを行う他,IEPの作成に関わるなど,主として間接的支援を行っている。見学した,2つの小学校の自閉症支援学級と特別支援学級では,それぞれ自閉症児の自己理解力とコミュニケーション能力を育成することや,自分自身の気持ちや考えを表現することを大切にする指導が行われていた。

【キー・ワード】TEACCHセンター,IDEA,学童期,インクルージョン,自閉症支援学級


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 148-155

中等教育での支援
――Wilmington のMiddle & High Schoolの見学から考える特別支援教育

富樫 京子
NPO 法人子どもの発達療育研究所長瀬療育相談室

榛谷 都
JUN International Preschool

平成16年より東京都教育委員会が策定している特別支援教育推進計画が進む中で,自閉症の児童・生徒の特性に合わせた学習環境・指導方法の充実として3つの構造化の実践が平成26年報告された。そのような状況の中,自閉症支援を先進的に実施しているWilmingtonのTEACCH センターの紹介でM. C. S. Noble Middle SchoolとE. A. Laney High Schoolを訪問した。ASDの生徒の特性に合わせた支援が行われており,物理的構造化・時間的構造化・活動の構造化が整っていることで,ASDの生徒が落ち着いた学校生活を送っていた。また,TEACCHセンターが診断・評価・指導支援等で関わり,幼児期から成人期まで,一貫した継続的支援を可能にしていることを知った。今回の訪問を参考に,特別支援教育の現状と筆者ら東京都立特別支援学校の外部専門家としての課題を整理する。

【キー・ワード】特別支援教育推進計画,ASDの生徒,構造化,継続的支援,外部専門家


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 156-160

成人期の就労と余暇支援

河野 俊寛
金沢星稜大学

成人期の就労余暇支援として,Wilmington のTEACCHセンターが支援しているサパークラブでのピクニック活動,GHAによるジョブコーチによる大手薬局チェーン店での就労支援とグループホームでの自立生活支援,及び,マイクロ・エンタープライズによる堆肥作りプロジェクトという起業の場を見学した。ピクニックで出会った成人達のコミュニケーション能力の高さ,薬局チェーン店でキャンディーコーナーを任されている女性の仕事の自立性,グループホームでの視覚的支援,環境保護も考慮した起業等々を知り,日本での成人支援の参考となった。

【キー・ワード】成人期,ジョブコーチ,グループホーム,余暇支援,マイクロ・エンタープライズ


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 161-170

小学校入門期算数授業における教師のフィードバックの考察
――有効ではない可能性についての検討

山本 佐江
東北大学大学院教育学研究科博士課程後期

本研究では,「学習を改善する助けとなるフィードバック」として形成的なフィードバックを意図する中で,有効ではない可能性について,実際の授業場面の教師と子どものやりとりから解明しようとした。小学校入門期の算数授業8回の観察から,互いのフィードバックを通して規範の意味を共有し,協同で学び合う問題解決活動場面を取り上げ,Lopez & Allal(2007)の研究による枠組を使って形成的フィードバックと有効でない可能性をもつ場面を抽出した。その結果,「課題に焦点化しない」「正誤に特化する」「訂正フィードバックの宛先」について,子どもの学習の改善や向上を支援しない可能性のあるフィードバックが見出された。

【キー・ワード】フィードバック,小学校入門期,授業規範,算数授業,コンサルテーション


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 171-178

発達障害のある外国籍児童とその保護者への支援の試み
――家庭と学校,関連機関の連携をコーディネートした事例から

松本 くみ子
お茶の水女子大学大学院

外国籍の保護者と学校,医療機関との連携を支援する際には,日本語力を補うだけでなく,その家庭の持つ母国の価値観に最大限配慮した支援を行う必要があるだろう。そこで,本論文では,家庭と学校,医療機関が連携して子どもを支援することを目指し,発達障害のある外国籍児童とその保護者を支援した事例から,外国籍の保護者を支援する際の留意点を探った。支援者には,子どもに関する様々な知識や情報を保護者の理解度に合わせて説明する力や保護者が保持している母国の価値観を理解しようとする姿勢が必要であること,保護者を含む関係者が一堂に会して情報を共有し,支援策を検討することが重要であることが示唆された。

【キー・ワード】発達障害,外国籍児童,保護者支援,医療機関との連携


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 179-193

PDD・ADHD・LD児とその保護者への継続的支援
――小学校4年生から高等専門学校2年生までの8年間の支援の効果と課題

冨永 由紀子
栃木県鹿沼市立みなみ小学校

本研究は,小学校4年生で医療機関を受診した男児とその保護者への8年間に渡る継続的支援を行った事例研究である。筆者は対象児が在籍した小学校の特別支援教育コーディネーターとして支援を開始し,その後卒後支援という形で継続的に教育相談を行った。本人や母親の語るエピソードについて質的研究方法を用いながら分析し,発達障害を抱えた本人や保護者が成長とともにどのように変容していったかについて検討した。8年間の継続的支援から学校種や行政的管轄を超えて,長期的な支援体制の整備が必要であると考えられた。また,不登校の早期支援や予防的介入として課題性を指摘されていた以前の段階である小学校高学年での配慮の重要性を示した。

【キー・ワード】広汎性発達障害,注意欠陥多動性障害,学習障害,登校渋り,二次障害,縦断的支援


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 194-202

機能の特定が困難な行動問題を示す特別支援学校中学部の自閉症生徒に対するDRLとトークンシステムを併用した介入の効果

加藤 慎吾
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科

小笠原 恵
東京学芸大学教育学部

本研究では,数年間にわたって激しい他害行動,自傷行動を示してきた特別支援学校中学部の自閉症男子生徒に対して介入を行った。機能の特定が難しい行動問題に対する,低頻度行動分化強化とトークンシステムを併用した手続きの効果と実行のしやすさを検討することを目的とした。介入の結果,他害行動,自傷行動共にその頻度は大きく低減された。さらに,支援実施者である担任教師が正確に支援を行ったことを示す実行度も高く維持された。しかしながら,授業への参加時間は介入前とほとんど変わらなかった。研究終了後の次年度にも本手続きは継続され,教師の自立的な支援が維持された。本研究で用いた手続きの効果と課題について考察を行った。

【キー・ワード】行動問題,自閉症,特別支援学校,低頻度行動分化強化,トークンシステム


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 203-215

自閉症スペクトラム障害のある中学生への自記式チェックシートを用いた支援実践

田口 禎子
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科

思春期・青年期前期は精神的不調のリスクが高まる時期であり,教師や親との心理的距離ができるとされている。精神的不調の兆候を早期に発見し早期介入をおこなうことで,症状の悪化を防ぐことが期待される。本研究では,自閉症スペクトラム障害のある中学生を対象に,医療機関において自記式のチェックシートを用いた介入をおこなった。自分の状態をふりかえり,「何について,どのくらい困っているか・悩んでいるか」を評価することで,起きている問題を顕在化させ支援者と共通理解することができた。それにより,具体的にその問題にどう対処していくかを話し合い,それを実践することで精神面の安定と学校適応の改善がみられた。

【キー・ワード】自閉症スペクトラム障害,アセスメント,思春期,こころの健康気づきチェック


臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第2号 216-224

大学・専門学校の在学中に発達障害が疑われた8 事例
――義務教育期間から支援教育が継続されてきた事例との発達・行動特性の違い

伊藤 淳一
北海道社会福祉事業団太陽の園・発達診療相談室

大学・専門学校の在学中に初めて発達障害が疑われた8事例(A群)の発達・行動特性について,義務教育期間から特別支援教育を受けて進学した6事例(B群)と比較した。A群には自身の発達の特異性を意識して対応を図ることで不適応行動が目立たない事例や不注意優勢型の多動症の特性を有する事例が多く,小・中学時に不適応行動や情緒の不安定さを呈して対応を要したB群とは異なる経過をとっていた。大学・専門学校における支援教育については修学・心理サポートのほかに,義務教育期間からの個別キャリア教育を継続することで自己認識・自己肯定感を高めること,現実的な将来像を設定しながら職業選択へとつなげていくことが望まれる。

【キー・ワード】発達障害,特別支援教育,大学・高等専門学校,キャリア教育


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