臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 4-10
離島における特別支援学校のセンター的役割の新システム
――ICTを活用した「瞳ランドプロジェクト」の取り組みを通して
香川県立高松養護学校小豆分室
離島である小豆島において,特別支援学校のセンター的役割の一環としてインターネットを活用した特別支援教育研修システム(瞳ランドプロジェクト)を構築・運用した。高松養護学校小豆分室と小豆島町の小・中学校の間を会議システムで結び,週一回10分間の研修を行った。小・中学校等に瞳ランドプロジェクトに対する質問紙調査を実施し,結果を多面的に分析した。その結果,瞳ランドプロジェクトについては,実施条件などに検討課題があるものの,総じて高い評価を得ることができた。専門施設や専門家の少ない地域に対する特別支援学校のセンター的役割の一つのモデルとしては有効であった。
【キー・ワード】離島,インターネット,特別支援学校,センター的役割,瞳ランドプロジェクト
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 11-15
自閉症スペクトラム障害(ASD)の早期支援における新しい課題
川崎市南部地域療育センター
「発達障害」概念の普及は,発達障害の量的拡大に留まらず,「発達障害」の概念そのものにも影響を与え,新たな支援ニーズを生み出している。自閉症スペクトラム障害(ASD)の早期支援における予防的観点の導入や,知的遅れのない,非典型例やグレーゾーン例への注目は,“ディメンジョン評価”の視点を持ったアセスメント技術の向上と支援システムのモデルチェンジという課題を提起する。専門領域と一般領域,あるいは医療・福祉・教育領域間の新たな協働関係を構築するためには,異領域を結びつけて実働させるインターフェース機能が必要である。臨床発達心理士は,この役割を担うために適した専門性を有すると考える。
【キー・ワード】自閉症スペクトラム障害,早期支援,ディメンジョン評価,予防的介入,支援スペクトラム
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 16-21
特別支援学校による小中学校への支援と臨床発達心理士
――8年間の巡回相談から見えてくること
千葉県立富里特別支援学校(教諭)/千葉大学教育学部(非常勤講師)
2007年度~2014年度の8年間に1つの市の小中学校に行った約450ケースの巡回相談について,まず相談件数と相談内容の推移を整理した。次に相談を行った子どもたちの傾向を知るために,156ケースの心理検査結果(WISC–Ⅲ,WISC–Ⅳ)を分析した。相談件数と相談内容の推移からは,年度が進み巡回相談が定着するにつれて外部専門家に求める役割が明確になっていったことがわかった。子どもたちの傾向は,全検査IQ70~89 の範囲の子ども,個人内差の大きさに注目する必要がある子ども,「注意記憶」または「ワーキングメモリー」の数値が低い子どもの比率が高かった。以上,特別支援教育への転換期の巡回相談から見えてくることをとおして,小中学校へのコンサルテーションの今後と,担い手としての臨床発達心理士に求められる専門性と役割について考察した。
【キー・ワード】小中学校,巡回相談,相談件数と相談内容,心理検査(WISC–Ⅲ,WISC–Ⅳ),臨床発達心理士
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 22-30
特別支援教育における臨床発達心理士に期待される役割
――東京支部の特別支援教育専門相談員養成および推薦事業の発展
のぞみ発達クリニック
松村 裕美
両国発達支援センターあんと
竹谷 志保子
うめだ・あけぼの学園
東京都における特別支援教育推進事業への協力活動として,東京支部(2005年までは関東支部)が組織化した東京都特別支援教育対策委員会の10年間の経緯を報告するとともに,現在の活動の実態と課題について通常学級への支援(①文京区立小学校,②文京区立中学校,③東京都立高等学校)と特別支援学校への支援(④東京都立特別支援学校普通科小・中学部,⑤特別支援学校普通科高等部,⑥都立特別支援学校職業学科)それぞれについて考察した。特別支援教育推進における専門家の役割には,大きく分けると教員へのコンサルテーションと生徒への直接支援の2 つの側面があるが,どちらに重点を置くかは事業目的や地域の教育システムによって異なる。①文京区立小学校と②文京区立中学校ではすでにスクールカウンセラーが全校配置され,知能検査や教育相談は教育センターで実施されるなどの体制が整っているため,教員へのコンサルテーションを主たる業務としつつ,既存の事業との役割分担と連携が重要になっている。④⑤特別支援学校普通科小・中・高等部では知能検査を含む生徒の実態把握と教員へのコンサルテーションが主たる業務だが,③都立高校と⑥特別支援学校職業学科ではそれに加えて思春期における心理的安定を目的とした生徒や保護者へのカウンセリングも重要な業務となっている。
【キー・ワード】特別支援教育,コンサルテーション,発達障害,知的障害,職業学
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 31-40
東日本大震災後の心の支援に被災地域の心理専門職がどのように携わってきたか
――日本臨床発達心理士会東北支部会員を対象とした調査より
東北文化学園大学医療福祉学部
神谷 哲司
東北大学大学院教育学研究科
橋本 信也
宮城県総合教育センター
佐竹 真次
山形県立保健医療大学
東日本大震災後3年間における心の支援への参加状況について,日本臨床発達心理士東北支部会員を対象にアンケート調査をおこない,その概略について報告することを目的とした。対象者は東北支部会員142名であり,回答のあった87名を分析の対象とした(回収率61.3%)。そのうち39名(44.8%)が何らかの心の支援に参加していた。被災三県在住の対象者が全体の75.9%を占めており,また対象者の約8割が居住環境に何らかの制限を受けていた。報告のあった心の支援のうち4割弱がいまだ継続中であること,震災から半年以降に始められた支援も3割ほど含まれていたこと,対象者における心の支援への参加従事の有無は,年齢,臨床発達心理士の資格取得後の年数,職業,心の安定をはかったか否かと有意に関連していることも明らかとなった。
【キー・ワード】東日本大震災,心の支援,心の安定方略,被災者であり支援者
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 41-45
「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラムによる支援
――愛着障害・愛着の問題を抱えるこどもへの支援
和歌山大学教育学部
本研究では,愛着障害,あるいは愛着の問題を抱えるこどもの発見・アセスメントのポイント,「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラムによる支援の実際,及び,自閉傾向と愛着の問題を併せ持つこどものパニック的攻撃行動への感情コントロール支援について報告する。このプログラムによる支援は,地域の保育所・幼稚園・小中高等学校・特別支援学校等において,実践した事例分析において,その効果,妥当性が示されており,生徒指導観の転換,特別支援教育の推進に大きく貢献している。また,このプログラムにより,実際の親子関係の改善が見られる例も多く,保護者支援にもつながっているものである。
【キー・ワード】愛着障害,発達障害,愛着修復,感情コントロール,「愛情の器」モデル
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 46-51
宮崎における幼児を対象としたペアレント・トレーニングの展開
――ペアレント・トレーナー養成という実践のありよう
宮崎大学教育学研究科
福島 裕子
宮崎大学教育文化学部附属幼稚園
古川 望子
はなまるProject
臨床発達心理士が,幼児を対象としたペアレント・トレーニングプログラムを作成し,幼稚園教諭および保育士に研修を行ってトレーナーを養成し, 幼児期の子どもを持つ母親を対象に,5回構成の介入を行わせた。母親たちは,養育スキルと子どもの行動傾向の改善を報告した。子どもの行動傾向により,高問題群,中問題群,低問題群に分けて検討したところ,高問題群と中問題群においては母親の養育スキルと子どもの行動傾向のほとんどの項目で改善がみられた。低問題群においても,部分的な改善効果が示された。このような予防的な集団介入を企画し,スーパーバイズ等の支援をしていくことも臨床発達心理士のひとつの活躍の場である。
【キー・ワード】ペアレント・トレーニング,幼稚園教諭,保育士,予防介入,養育スキル
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 52-58
家庭で過剰な要求を示す自閉スペクトラム症児へのPECSの活用
――育児支援を必要とする母親への指導を通して
室蘭市子ども発達支援センター
河内 哲也
北海道社会福祉事業団太陽の園
本研究では,家庭において過剰で不適切な要求機能を持つ問題行動を示した自閉スペクトラム症(以下,ASD)児に対して,精神障害者手帳を保持する母親がそれをコントロールするために,家庭において絵カード交換式コミュニケーションシステム(以下,PECS)を用いた介入を試みた。その結果,適切な要求と終了の行動を形成することで,過剰で不適切な要求行動が減少した。これらの要因としては,育児支援を必要とする母親に対してPECSの指導方略がわかりやすかったことや適応行動の増加が意識しやすかったこと,さらに対象児自身が,PECSの指導方略を通して,母親に対して要求行動の示し方を理解しやすかったことなどがあげられた。
【キー・ワード】育児支援を必要とする母親,PECS,要求
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 59-67
広汎性発達障害児における聞き手の視覚と聴覚における情報処理の可能性に応じたモダリティの選択
――視覚・聴覚・触覚の3種類の伝達手段を通して
埼玉大学(非常勤講師)
須藤 邦彦
山口大学教育学部
大石 幸二
立教大学現代心理学部
本研究は,1名の広汎性発達障害児が,聞き手とされる他者の視覚と聴覚の情報処理の可能性に応じてモダリティの選択が可能になるかどうかを検証した。具体的には,他者の使用している道具を弁別し,他者が視覚的な伝達を行うか,聴覚的な伝達を行うか,触覚的な伝達を行うかを正確に選択できることを目的とした。本研究では,他者の使用している道具へ注意の方向づけのプロンプトを行い,振り返りを行うことによって,他者の使用している道具を弁別し,伝達手段を選択・実行することが可能になった。以上のことから,広汎性発達障害児が他者の視覚と聴覚の情報処理の可能性に応じたモダリティを選択することができる可能性を示唆した。
【キー・ワード】広汎性発達障害,モダリティ,伝達
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 68-77
反応性愛着障害のある広汎性発達障害児の通常学級における適応を目指して
――校内支援体制の構築及び専門医との連携を通して
碧南市立大浜小学校
反応性愛着障害をもつ児童Aは,入学後,通常学級で級友に対して一方的に暴力を振るう行為を頻繁に表出した。そこで,集団生活への適応を図るため,次の手だてを講じた。1)K-ABC検査を実施することによって情報処理プロセスを推定し,個別の指導計画に反映させた。2)小児神経科で受診することを保護者に勧めたことにより診断名が確定し,初期の深刻な不適切行動を調整するための投薬が処方された。3)学級担任以外の多くの職員による多角的な支援を提供した。4)学級担任が児童Aに役割を与え,毎日その仕事を依頼することによってクラスへの所属意識を高めると同時に,クラス全員の前で本児のよいところを褒め,本児が認められるよう働きかけた。以上の結果,不適切行動が減少し,級友と会話ができるようになり,また落ち着いて授業を受けられるようになるなど,適応的な学校生活を送ることができるようになった。
【キー・ワード】反応性愛着障害,発達障害,適応,通常学級,特別な支援
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 78-86
反1歳児クラスにおける「気になる子」と集団形成との相対的関係
國學院大學人間開発学部
本稿は,集団が形成されていく過程の1 歳児クラスを対象にし,その過程と相対化するかたちで,浮き彫りになってくる「気になる子」の存在を明らかにしたものである。集まりの基点となるものが,求心的な特徴をもつようになるにつれ,「気になる子」はそれと相対するかたちで浮き彫りにされることとなった。その一方,集まりの基点が拡散的なものへと移行すると,活動全体を覆う共通項を媒介に,基点が点在することによって「気になる子」の存在が,「気にならなく」なっていった。「気になる子」の保育に関して,その子と他の活動とを切り離すことなく,関係を結びつける可能性を保育の縦断的分析から検討したものである。
【キー・ワード】1歳児クラス,気になる子,集団形成,保育環境の構成,相対化
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 87-94
発達障害児の行動問題に関する保護者の意識調査
――学校現場への指導技法導入に向けて
東京都立小平特別支援学校
橋本 創一
東京学芸大学教育実践研究支援センター
霜田 浩信
群馬大学教育学部
本研究の目的は,発達障害児の行動問題に関する保護者の要望の実態を調査し,指導技法の導入促進のための方策を検討することである。保護者33名を対象に,教師に求める支援や専門性などに関する項目を設けた質問紙調査を実施した。その結果,困っている行動として,情緒面や多動性・衝動性に関する行動が多い傾向にあり,73%の保護者がとても困っていると回答した。教師に求める支援として,学習面や情緒面に関する行動への対応が多く記述された。自分の気持ちを上手に伝える指導という項目では,優先度低群に比べ優先度高群が有意に高かった。今後は研修体制の構築や,コミュニケーション面の指導力強化が導入促進のために必要と考えられる。
【キー・ワード】発達障害児,行動問題,指導技法の導入,保護者の意識
臨床発達心理実践研究2015 第10巻 第1号 95-103
小中学校における特別な教育的ニーズを有する児童生徒への支援の実態と類型
――特別支援教育巡回相談における授業観察記録に基づく検討
埼玉県立大学
発達障害等の児童生徒に関して小中学校の通常学級で行われている支援例の収集を行った。365件の特別支援教育巡回相談の授業観察記録を基に質的帰納的分析を行い,①教師自身の言動の工夫と配慮,②課題・活動内容の工夫と配慮,③環境の調整の3個の大カテゴリーと11個の中カテゴリー及び52個の小カテゴリーが集約された。併せて,巡回相談が教育現場の教師の実践に及ぼす影響と限界性を考察した。これらを踏まえ,特別支援教育に関する教師の主体的な実践を促進・開発するコンサルテーションの在り方について,教育現場の経験知の支援仮説への再構成,学校組織をコンサルティーに位置づける視座,教師と巡回相談員が相互に専門性を開発し合う協働関係を提言した。
【キー・ワード】授業,特別支援教育巡回相談,学校コンサルテーション