臨床発達心理士|JOCDP(一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構)

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臨床発達心理実践研究2012 第7巻 4-9

日本臨床発達心理士会による支援
――「心のケア」を超えて東日本大震災支援対策本部の活動

長崎 勤
筑波大学,日本臨床発達心理士会幹事長,東日本大震災支援対策本部長

2011年3月11日に起こった東日本大震災は,地震・津波だけでなく,原子力発電所の事故も加わり,今まで私たちの国・社会が経験したことがない深刻な,また広域・長期間にわたる未曾有の大災害となった。私たちは,この災害は私たち臨床発達心理士に提起された問題=チャレンジであると捉え,それに応じていきたいと考え,ささやかな支援活動を行ってきた。この災害に対し,臨床発達心理士・東日本大震災支援対策本部がどのような方針で,またどのようなシステムによって支援を行ってきたかについて,その概略を時系列に沿って整理し,「心のケア」を超える,これからの私たちの災害支援の課題について考えてみる。

【キー・ワード】日本臨床発達心理士会,東日本大震災支援対策本部,「心のケア」を超えて


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 10-18

見通しの立たない不安を抱えて
――臨床発達心理士会埼玉支部原発避難者支援報告

金谷 京子
聖学院大学

高橋 一公
東京未来大学

和田 香誉
埼玉県立大学

新島 芳子
さいたま市立大田小学校

坂本 佳代子
坂本福祉事務所

吉池 望
埼玉県立越谷特別支援学校

須藤 幸恵
埼玉県立所沢おおぞら特別支援学校

増田 忠男
埼玉県立騎西特別支援学校

澤江 幸則
筑波大学

増子 幸子
埼玉県立騎西特別支援学校

本報告は,3.12福島第一原発事故による他県への原発避難者への支援の報告である。ことに児童を対象とした「遊び広場」の開催の経緯と広場を通しての子どもの変化について述べた。子どもたちは狭い避難所での生活で我慢を強いられている。また,居住場所が定まらず転々と転居を繰り返し,そのたびことに喪失体験を重ねている。そうした子どもに対し,ストレス解消と抑圧された感情の表出を目標に体を動かし共に活動をするための遊び広場を11カ月に渡り開催した。また,障がい児の処遇ケアも実施し,さらに精神的なケアの必要な避難者への個別相談も実施した。これらの実践を振り返り,災害避難者への支援のあり方を検討した。

【キー・ワード】避難所支援,原発事故,遊び広場,喪失体験,ボランティア


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 19-23

東日本大震災後の教師支援の実際と課題
――「ケア・宮城」の活動を通して

本郷 一夫
東北大学

本論文は,東日本大震災後に教師支援を目的として立ち上げた「ケア・宮城」の活動を通して,臨床発達心理士としての支援,臨床発達心理士認定運営機構あるいは日本臨床発達心理士会としての支援のあり方を検討することを目的とした。その結果,個人の支援においても,組織の支援においても,相手の安全・尊厳・権利を尊重することを支援の原則としながら,「時間軸を考慮した支援」「文化を考慮した支援」が重要であること,さらには新たな協力・連携関係を形成しながらの支援を通して臨床発達心理士としての専門性を高めていくことが重要であることを指摘した。

【キー・ワード】東日本大震災,ケア・宮城,教師支援,サイコロジカル・ファーストエイド,被災者の視点に立った支援


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 24-29

福島県相馬市での多職種専門家派遣による支援活動から見えてきた課題
――「震災だから仕方ない」のか?

東 敦子
のぞみ発達クリニック

堀江 まゆみ
白梅学園大学

福島県からJDDネットへ委託された「福島県被災した障がい児に対する相談・援助事業」において,臨床発達心理士会,臨床心理士会,言語聴覚士協会,作業療法士協会,特別支援教育士協会の5士会が協力した専門家派遣活動が行われた。現地の支援ニーズをあきらかにするために,派遣専門家と現地支援者との間で行われた「地域ミーティング」における参加者の発言内容の質的分析をおこなった結果,子どもの情緒・行動面の変化に対して発達的な視点から捉えていくことの重要性が浮かび上がった。さらに,震災による家族のストレスや,地域の専門家不足,支援者の過労などの課題を解決するために,既存の支援機関を活用しつつ,専門家連携による長期的な視点での支援活動が望まれていることが明らかとなった。

【キー・ワード】多職種連携,専門家派遣,地域連携,発達支援,質的分析


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 30-36

気仙沼での民間コーディネーターとの連携による支援

前川 あさ美
東京女子大学

西本 絹子
明星大学

被災地支援には様々な形がある。気仙沼プロジェクトは地元の人たちの声を受けてはじまった支援活動だ。日本臨床発達心理士会は,2011年8月より,被災地で支援を必要としている様々な施設と被災地外の支援者をつなごうと活動中の地元ボランティア・コーディネーターチームと協力しながら,被災地の個別ニーズに柔軟に応じるべくプロジェクトAとプロジェクトBという支援を行ってきた。気仙沼プロジェクトが始まって半年が過ぎようとしているが,2つの支援の意義と課題,そして今後の展望について整理し,考察した。

【キー・ワード】被災地支援,被災地外からの支援,連携,支援者支援,学生による支援


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 37-41

自閉症の人とその家族にとってどんな備えが必要なのか

熊本 葉一
岩手県自閉症協会

東日本大震災での避難生活は長期にわたり避難者の困難を増した。自閉症の人の困難は「日常の喪失」だった。家族の困難は「周囲の人との関係」だった。避難場所での生活を検証する中で自閉症の人にとって必要な「備え」が明確になった。一つは「場所の備え」である。自閉症の人のための福祉避難所の確保が必要である。二つ目は,日常を支える「ものの備え」である。避難生活の中で安心を得られたり一人で過ごせたりするようなものが必要である。三つ目として「人の備え」が必要である。地域ネットワークやインクルーシブ教育を通して理解のある地域づくりをしていくことが大切である。

【キー・ワード】福祉避難所,非常時持ち出しグッズ,地域ネットワーク,インクルーシブ教育,双方向の支援


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 42-46

原発事故による避難家族への支援

根ヶ山 光一
早稲田大学人間科学学術院

平田 修三
早稲田大学人間科学研究科

石島 このみ
早稲田大学人間科学研究科

地震に伴う原発事故により母子が関東に避難し父親が現地に残留した分離家族に対し,父母への面接・スカイプ機器貸与・子どものビデオ記録などを通じて家族を繫ぐ「かささぎプロジェクト」を立ち上げ支援を行ってきた。避難家族の生活は,①生存の確保,②生活基盤の整備,③将来の人生展望の順に変化し,現在は②から③への移行期として,生活形態の再組織化の兆しがみえるとともに,地域ネットワークからの孤立化や分離の常態化によるストレスや疎遠状態の固定化など,新たな課題も出てきている段階である。今後も家族が求めるニーズを絶えずヒアリングし,柔軟にかつ継続して長期にわたり支援を続ける必要がある。

【キー・ワード】原発事故,避難家族,かささぎプロジェクト,地域ネットワーク,孤立化の回避


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 47-54

気仙沼の高齢者施設の現状と心理
――気仙沼プロジェクト(高齢者施設訪問)からの報告

中村 淳子
桜花学園大学

齋藤 泰子
武蔵野大学

大川 一郎
筑波大学

田島 洋介
医療法人心の会目黒駅前メンタルクリニック

坂本 佳代子
坂本福祉相談事務所

岡本 多喜子
明治学院大学

成田 健一
関西学院大学

三宅 篤子
帝京平成大学

峯尾 武巳
神奈川県立保健福祉大学

日本臨床発達心理士会と日本老年行動科学会は,連携して気仙沼プロジェクトにおける高齢者施設への支援を行っている。本論文は,震災当時から8ヶ月後に至るまでの,気仙沼の高齢者施設に対する視察と聴き取りの結果をまとめ,気仙沼の高齢者施設の現況と施設職員の心理について分析を試みたものである。これらの結果を踏まえて,今後の気仙沼支援における留意点や支援の方向性についての考察を行った。

【キー・ワード】成人・高齢者部会,日本老年行動科学会,連携,高齢者施設


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 55-59

被災者,遺族,研究者として東日本大震災からの1年を振り返って
――研究者が遺族になって誰に何を相談したか

平野 幹雄
東北文化学園大学医療福祉学部

本稿では,東日本大震災からの1年弱の期間を,被災者としての地震直後の生活,遺族という立場の経験,研究者としての支援の三つに分けて振り返った。筆者の場合,市街地にて被災して,震災の影響はライフラインの制限のみであったが,その後弟を探しに安置所に行くという経験をした。遺族として喪失感を抱き,抑うつ状態も経験した。喪失感の共有をしてほしいと思った相手は自分の家族や恩師,親しい友人であった。このような経験を通じて,被災地の人々を対象に心理的な支援を行っていく際には,心理学者が現地の人々と関係性を構築しながら行うことが強く求められるものと考えられた。

【キー・ワード】東日本大震災,喪失感,支援


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 60-66

災害弱者と福祉避難所の問題
――東日本大地震被災時に収容避難場所を利用できなかった発達障害児・者について

梅宮 れいか
福島学院大学

本稿は,東日本大地震被災時に一部で報告された,収容避難場所における発達障害児・者の生活環境の問題を災害弱者,収容避難場所,福祉避難所の3つを吟味することで洗い出すことを目的とする。①行政で共有されているであろう災害弱者の概念は,避難誘導に焦点が置かれたもので,避難生活が長期に渡る場合の概念が欠落している。②収容避難場所よりも手厚い支援が提供されるとする福祉避難所の支援内容は,介護中心で対象設定が曖昧である。この2点から,災害時における発達障害児・者は見落とされた人々であると指摘する。被災時に発達障害児・者のように可視性に乏しい障害者を受け入れる要件として収容避難場所の環境設定以前に,避難所設置主体における知識の末端までの共有が不可欠で,急務であることを訴える。

【キー・ワード】災害弱者,福祉避難所,発達障害,収容避難場所,可視性


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 67-71

会津地方へ避難した被災児童及び保護者の教育支援体制について

寺田 隆一
福島県会津若松市立鶴城小学校

東日本大震災から約9カ月,被災者たちの生活環境が激変した中で,子どもや保護者に及ぼした震災ストレス症状を見極め,どのような教育支援体制を整えれば適応した学習活動が成立するかについて検討した。保護者たちの震災ストレスは,津波被害と放射性物質被害の違いによって異なり,放射性物質問題や父子分離問題による家族関係の不安定さが不安を高め,子どもたちの心理面に影響を及ぼしていることが示唆された。初期段階に震災ストレス症状等の校内研修を実施したことで,適時的確な教育支援体制を構築できた。

【キー・ワード】校内研修会,教育支援体制,保護者支援,保護者面談


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 72-80

保育支援の実態とニーズ
――保育所・幼稚園における,保育実践に必要な知識・情報の入手の観点から

三宅 幹子
岡山大学

坂田 和子
福岡女学院大学

倉盛 美穂子
鈴峯女子短期大学

西川 由紀子
京都華頂大学

荒木 久美子
札幌市東保健センター

秦野 悦子
白百合女子大学

井上 孝之
岩手県立大学

廣利 吉治
東海学院大学

金田 利子
名古屋芸術大学

山崎 晃
明治学院大学

本研究では,保育・教育の現場における現状と支援ニーズについて明らかにするために,全国の保育所・幼稚園を対象に質問紙調査を行った。この結果について,保育実践に必要な知識・情報の入手という観点から整理し,臨床発達心理士に求められる保育支援のあり方について考察した。発達の課題についての知識・情報や具体的な支援技術についての知識・情報のニーズが高いこと,8割近くの園(所)において,保育担当職員への知識・情報の提供方法に課題を感じていること,知識・情報の入手だけでなく,知識・情報が保育実践に生かされるまでの一連の過程を視野に入れて保育支援を考える必要があることなどが示された。同時に,情報の理解・解釈,共有から具体的な支援方法の考案・実施に生かす過程を,保育者の資質の向上を図りつつどう支援するかということや,具体的支援方法・技術の背景にある発達の理論についての知識・情報提供のニーズをどう活性化するかにも目を向ける必要があると考えられる。

【キー・ワード】保育支援,保育所,幼稚園,臨床発達心理士の役割


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 81-88

幼児の数量認知の個人差に対する保育者の認識の特徴
――幼稚園教諭へのインタビューによる事例的検討

田爪 宏二
鹿児島国際大学

高垣 マユミ
実践女子大学

本研究では,3名の幼稚園教諭へのインタビューの事例に基づき,幼児の数量認知とその個人差に対する保育者の認識,および援助における配慮の特徴について検討した。その結果,数量認知については,数量の理解の程度と視点の個人差が挙げられ,個人差の要因については習い事およびきょうだいの有無が挙げられた。また,援助においては,数量概念の獲得を意識してはいないが,活動の中で数量に対する認知を促そうとする配慮がみられた。さらに,保育者の発話の多くは,数量の問題のみに特化した発話ではなく,保育や子どもの生活全般に関係づけながら捉えたものであった。

【キー・ワード】数量認知,幼稚園教諭,実践知


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 89-100

親と子の成長に関わる保育支援の試み
――過剰なテレビ画面視聴をしていた幼児の追跡事例を手がかりとして

土谷 みち子
関東学院大学

本稿は,発達初期から過剰なテレビ画面視聴をしていた3歳児を対象にした3年間の追跡事例研究である。対象児は初期経験が乏しく発達の遅れを示していたが,個別担当保育者との集団活動への参加によって,探索行動を促進すると共に社会性領域の遊びを楽しみ,保育者や母親および他児との遊びを活発にしていった。この経過のなかで,母親も育児に対して主体的になると共に,母子間の関係調整が促進されるようになった。親と子が同時に保育活動に関わり,それぞれが主体的に集団に参加することを支援することは重要であり,親と子それぞれの共発達も促進することが示唆された。

【キー・ワード】保育支援,親と子の共発達,テレビ画面過剰視聴,乳幼児,追跡研究


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 101-109

発達障害が疑われる児童における約束カードによる行動調節の支援

中内 麻美
深谷市立教育研究所

本研究では,多動・衝動的な行動特徴を示す発達障害が疑われる児童を対象として,約束カードが行動への統制機能を有するようになるために,段階的に強化する指導を行った。指導の結果,3つの標的行動には,それぞれ指導効果に差がみられた。要求言語行動は一致訓練期において,ルール遵守行動は言語訓練期において,行動が促進された。一方,教示への注目行動は,指導効果がみられなかった。これらの結果を踏まえ,言語の記述内容と指導手続きについて考察し,自ら行う行動調節を促す条件を検討することを今後の課題とした。

【キー・ワード】約束カード,行動調節,言行一致訓練


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 110-118

情緒障害児短期治療施設における虐待事例の検討
――養育能力不足から虐待に至った母親への支援を中心に

中鹿 彰
追手門学院大学心理学部

本研究では,情緒障害児短期治療施設での事例のうち,子どもがADHDを伴っており,母親もADHD素因を伴うため養育能力不足から虐待に陥った家庭への支援の経過を報告した。子どもへは施設における構造化された生活の中で,望ましい行動を強化するために,保育士指導員から行動療法的取り組みがなされた。母親に対しては,子どものADHDとしての行動の理解を求め,施設と家庭で具体的な目標を共有し,両者の関係の改善を目指した。また,これまでの虐待に繫がった経過について話し合う中で,自分もADHD素因を伴っていることを気づき,子どもへの関わり方について反省するようになった。今後の課題は,虐待支援に関わる場合,支援者が子どもの発達障害だけでなく,養育者も発達障害を伴っている可能性に気づき,両者を支援の対象とする視点を持つことである。

【キー・ワード】ADHD,児童虐待,施設支援,養育困難,母親支援


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 119-127

思春期自閉症スペクトラム障害者への本人告知に伴う自己理解支援の検討

森田 美紀
むさしの発達支援センター

伊藤 良子
東京学芸大学

本研究では,自分と他者との違いについての気づきをを抱いている3名の自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)者に対して障害の本人告知と自己理解プログラムを実施し,彼らの自己理解の変容についての検討を行った。本人告知は医師と本人との二者面接によって行い,それぞれがショックや驚きと言った反応を示した。自己理解プログラムは,彼らが有しているASDの特性について理解することを目的として実施し,文章完成法(SCT)と時間的展望尺度(白井,1994)により効果測定を行い,プログラムを通して自己を具体的に捉え,過去の自分についての意味づけが明確になされたことが示された。今後は彼らが自己のプラスの面を捉えながら,将来展望を描ける支援についての検討が必要であると考えられる。

【キー・ワード】自閉症スペクトラム障害,本人告知,自己理解,SCT,時間的展望


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 128-135

自閉症児における携帯電話によるやりとり技能の促進
――スクリプト・スクリプトフェイディング手続きを用いて

下平 弥生
岩手県立盛岡みたけ支援学校

宮﨑 眞
岩手大学教育学部

知的障害を伴う自閉症児1名に対して,標的行動のスクリプトを提示し,段階的にフェイディングしていくスクリプト・スクリプトフェイディング手続き(以下S・SF手続きと略す)により,携帯電話でのやりとり指導を行った。その結果,母親や学級担任との定型化されたやりとりが成立し,維持するようになった。本研究において,S・SF手続きによるやりとり指導の有効性が確認できたが,相手からかかってきた電話に応答したり,連絡が必要な状況が生じた時に相手に電話で伝えることが今後の課題である。

【キー・ワード】自閉症,スクリプト・スクリプトフェイディング手続き,携帯電話,やりとり


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 136-144

中高一貫校に在籍する特別な教育的ニーズのある生徒への自己理解支援の事例

三浦 巧也
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科

橋本 創一
東京学芸大学教育実践研究支援センター

中高一貫校に在籍する特別な教育的ニーズのある生徒に対して,認知行動療法の手法を取り入れた自己理解を促す支援プログラムを施行した。その結果,自分の苦手とする特性を受け入れ,得意とする力を用いて日常生活で抱く課題を改善していった。また,積極的な行動が多くみられるようになったことをうけて,教職員の生徒に対する意識が肯定的な見方へと変化していった。自身の問題を正確に理解し,その問題に対処するスキルを身につけ自分自身の力で課題を乗り越える力が増大したことは,自己理解を促す支援が学校生活の適応を促す支援の一翼となることを示した。

【キー・ワード】自己理解,中高一貫校,特別な教育的ニーズ,認知行動療法


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 145-152

中行動障害を呈する自閉症者への機能的アセスメントに基づいたコミュニケーション・スキルの獲得

松田 光一郎
京都ノートルダム女子大学生活福祉文化学部

本研究は,行動障害を呈する自閉症者に対して,適切なコミュニケーション行動の形成を目指した支援事例である。対象者は授産施設来所時に暴言,暴力,唾吐き等の行動問題が頻発し,安定した作業遂行が困難な状況にあった。そこで,筆者は行動問題の生起する具体的場面を通して機能的アセスメントを行った結果,行動問題は不適切なコミュニケーション行動の強化によって悪循環的に維持されていることが推測された。そこで,課題場面に行動問題と相容れない適応的な代替行動を推定し,文字カードとチェックリストを活用した支援を行ったことで,行動問題が低減し良好なコミュニケーション行動が確認された。

【キー・ワード】行動障害,自閉症,機能的アセスメント,文字カード,チェックリスト


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 153-161

大学生の学生生活支援に活かす認知行動療法(CBT)の検討
――境界性パーソナリティ障害へのCBT基本モデルによるアセスメントを中心に

松田 美登子
東京富士大学経営学部

本稿では大学キャンパス内にある学生相談室をフイールドに,境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder: 以下BPD)と診断された大学4年のA子に対する支援について報告する。BPDのA子は,母親との愛着形成が不十分なことから,慢性的な“見捨てられ不安”を抱えていた。見捨てられるのを避けるための執拗な関係性の持ち方は,対人関係,特に異性とのトラブルに発展することが多く衝動的に自傷行為を繰り返していた。そのため,卒業が困難となる。このようなA子に対して,医療機関や教員との連携を図りながら,支持的カウンセリングに認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy)を併用した介入を行ったところ,自分の症状の悪循環に気づき自傷行為は見られなくなった。その結果,無事に卒業を果たすことができたので報告する。

【キー・ワード】学生支援,認知行動療法,教員との連携,アセスメント,境界性パーソナリティ障害


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 162-174

子どものライフステージごとの親の子育て意識と子育て支援ニーズに関する研究
――乳幼児・小学生・中学生の保護者を対象に

倉盛 美穂子
鈴峯女子短期大学

西村 いづみ
県立広島大学

細羽 竜也
県立広島大学

子育て支援体制や制度は乳幼児期を対象としたものが多く,学童期や思春期を対象としたものは少ない。本研究では,子どもの成長に伴う親が抱える悩みの違いや悩みへの対処のあり方を調べ,乳幼児期から思春期までの包括的な子育て支援のあり方について検討した。結果,子どものライフステージにより,親の身体的負担感,精神的負担感,経済的負担感のウエイトは異なり,親の抱える悩みも異なっていた。特に,学童期や思春期の子どもをもつ親は,乳幼児をもつ親に比べて体系的な子育て支援をうけることが少ない中で,子どもの将来の自立に向け子育てに取り組んでいる様子が窺えた。子育ての長期化が指摘される昨今,学童期・思春期での子育て支援策の重要性が示唆されたと言える。

【キー・ワード】子どものライフステージ,子育て意識,学童期,思春期,子育て支援


臨床発達心理実践研究2012 第7巻 175-183

教育現場における特別支援教育巡回相談の効果的活用に関する検討
――教師の意識と行動にかかわる質問紙を通じた調査

森 正樹
埼玉県立大学保健医療福祉学部共通教育科

藤野 博
東京学芸大学特別支援科学講座

大伴 潔
東京学芸大学教育実践研究支援センター

特別支援教育における教師の意識・行動に着目し,学校コンサルテーションのニーズを検討した。小学校で通常の学級を担任する教師を対象に質問紙調査を実施し,その結果,実効性ある特別支援の実現のためには,教育現場において,連携の機会が課題や実践の言語化に結びつく必要があることが示された。これらの統計的検討を踏まえ,巡回相談の活用支援の視座として,①カンファレンスの目的の明確化と,ここでの検討を生産的に進める関与,②地域資源と人材情報の活用支援,③ 教師の専門性と主体性の尊重,④異なる専門性との出会いを省察に繫げる関与,⑤支援仮説形成の促進を提言した。併せて,教育現場に提供した巡回相談の活用ガイドラインを付した。

【キー・ワード】特別支援教育,特別支援教育巡回相談,学校コンサルテーション

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